システム開発には、様々なリスクが潜んでいます。これらのリスクは、ソフトウェアやプログラムの開発を進める際に発生しうる課題や障壁のことを指します。
開発プロジェクトを円滑に進め、成功させるためには、発生しうるリスクを特定し、適切な対応をとることが大切です。
本記事では、システム開発に潜むリスクの種類や要因、そしてリスクマネジメントの手順やポイントについて詳しく解説します。
システム開発でリスクへの対応が必要な理由
システム開発のリスクが顕在化した場合、プロジェクトの進行が停滞するだけでなく、それ以上の損害が発生する可能性があります。
例えば、開発会社とクライアントの間でトラブルになり、プロジェクトそのものが中止になる事態も起こり得るでしょう。その場合、多くの労力や費用が無駄になってしまい、開発者・クライアントともに大きな損失を被ることになります。
プロジェクトを成功に導くには、リスクが顕在化した際に迅速な対応ができるよう、事前に対策を立てておくことが大切です。
システム開発のリスクの種類・要因一覧
システム開発には、主に以下のようなリスクが存在します。
- 金銭的リスク
- 技術的リスク
- 品質リスク
- 納期リスク
- 組織的リスク
それぞれのリスクと、その対策について詳しく見ていきましょう。
金銭的リスク
金銭的リスクは、プロジェクトが進行する中で当初の見積もりよりも開発費用が増大するリスクを指します。
見積書に同意してプロジェクトが始まっても、仕様変更や機能拡張、障害対応などにより工数が増加し、結果的に見積額を超えることは珍しくありません。とはいえ、見積額と開発費用の乖離があまりに大きいと、クライアントは想定外の出費を強いられることになります。
こういった金銭的リスクを回避するためには、開発会社とクライアントの間で、事前に入念な打ち合わせを行うことが大切です。また、開発会社には見積もり精度の向上や、徹底したプロジェクト管理が求められます。
技術的リスク
技術的リスクとは、技術的な制約やスキル不足により、システムが期待通りに動作しない、あるいは要件を満たせなくなるリスクを指します。
開発チームのスキルが不足していると、バグやセキュリティ問題が発生しやすくなります。また、技術的に要件の実現が困難な場合、プロジェクトの中断にもつながりかねません。
技術的リスクを回避するために、クライアントは委託先を慎重に選定する必要があります。正式な契約を結ぶ前に、委託先候補の技術的なレビューや評価、実績などについて確認しておきましょう。
品質リスク
品質リスクとは、完成した成果物が、クライアントの期待する品質に満たないリスクのことを指します。
品質リスクが生じる主な原因は、発注側と受注側、あるいはプロジェクトチーム内のコミュニケーション不足により、品質に対する認識のズレが生じることです。
例えば、要件定義が不十分な場合、期待する機能や性能といった情報が共有されないことがあります。そうなると、修正や遅延が発生したり、クライアントの意図しないシステムが完成したりする恐れがあります。
品質リスクの発生を防ぐためにも、時間を割いてコミュニケーションを取り、品質に対する認識を十分に共有しましょう。
納期リスク
納期リスクとは、スケジュール通りに開発が進まず、委託企業の希望納期までに納品できないリスクです。
プロジェクト途中での仕様変更や、開発メンバーの不足、スケジュール策定における工数見積もりの甘さなどによって引き起こされます。個々の要因が及ぼす影響は小さくても、それらが積み重なると、追加の人員投入や開発スケジュールは大きく遅延します。
場合によっては、追加費用が発生したり、予定していた日時にシステム・ソフトウェアを利用できなかったりする事態にもつながりかねません。
納品リスクを避けるためには、開発着手前の段階から希望納期を明確にし、クライアント、開発会社の双方に余裕のあるスケジュールを立てることが重要です。
組織的リスク
組織的リスクとは、開発会社のプロジェクトチーム内で、進行を阻害する問題が生じるリスクを指します。
このリスクは、プロジェクトチームマネージャーのスキルや経験不足によって生じることがほとんどです。
プロジェクトマネージャーは、クライアントのニーズをくみ取ったうえで、チームをまとめながらプロジェクトを進めなければなりません。プロジェクトマネージャーの主な業務は以下のとおりです。
- 委託企業と開発チームのスケジュール調整
- チームメンバーのマネジメント
- 進行管理
- 予算管理
プロジェクトマネージャーのスキルが不足していれば、クライアントとの認識のすりあわせがうまくいかない、チームの人員配置や進行管理が適切に行われないといった事態が発生し、開発が滞る可能性があります。
システム開発のリスクマネジメントの手順
システム開発におけるリスクマネジメントは、以下の手順で行います。
- リスクの洗い出しを行う
- リスクを分析して優先順位をつける
- リスクの対応方法を決める
- リスク管理を行う
それぞれの手順について詳しく見ていきましょう。
1.リスクの洗い出しを行う
はじめに、開発の各プロセスを確認し、どのようなリスクがあるのかを確認していきます。その際には、以下のチェックリストの活用がおすすめです。
スケジュール | ・スケジュールに余裕はあるか ・プロジェクト間のスケジュールに問題はないか |
コスト | ・見積は項目ごとに明確になっているか ・不測の事態が発生した場合の記載はあるか ・各項目と成果物との関係があいまいになっていないか |
人員や体制 | ・各スタッフの責任と役割が明確になっているかどうか ・スタッフのスキルは十分かスタッフが途中で退職や休養するリスクはないか ・開発の窓口は一本化されているか ・各スタッフの稼働時間は余裕を持って定められているか |
品質管理 | ・品質管理がスケジュール通りに行われているか ・バグが発生した時の対応策は明確か ・クライアントの要望が漏れなく反映されているか ・要件定義があいまいになっていないか |
チェック項目の作成やチェックの実施時には、できるだけ多くのプロジェクトメンバーに協力をあおぐことで、より確実にリスクを発見できます。
2.リスクを分析して優先順位をつける
次に、洗い出したリスクを分析し、優先順位をつけます。その際、リスクが顕在化する可能性の高さと、顕在化した場合の影響の大きさを判断基準にしましょう。
高確率で顕在化し、なおかつ影響の大きいものから優先的にランク付けしてください。
3.リスクの対応方法を決める
優先順位に基づき、リスクの対応方法を決めていきます。対応方法を立案する際にも、なるべく多くのプロジェクトメンバーの意見を取り入れることが大切です。そうすることで、より合理的かつ早期に対応方法を見つけやすくなります。
リスクの対応方法には、大きく分けて以下の4つがあります。
対応方法 | 内容 |
---|---|
回避 | リスクの発生要因を取り除き、リスクが生じるのを回避する方法 【例】 ・初めて活用する技術やリスクのある開発手法を避ける ・開発自体を取りやめる |
転嫁 | 保険や保証などにより、リスクが生じることによる影響を外部に移転する方法 【例】 ・リスクが高い工程を外部に委託する ・リスクの発生に備えて損害賠償保険に加入する |
軽減 | リスクの発生確率を下げたり、リスクが生じることによる損失を抑える対策をとる方法 【例】 ・事前に仕様や技術の現実性を確認しておく ・予備費を確保しておく |
受容 | ・リスクの発生を抑えるための対策を行うのではなく、予想されるリスクを受入れ、万が一の発生に備えておく方法 ・発生が予見されるリスクの規模が小さい場合や、回避・転嫁・軽減をするためには費用がかかりすぎてしまう場合に用いられる |
4.リスク管理を行う
各リスクに対する対応方法を決めたら、リスク管理表を活用してリスクコントロールを行いましょう。これまでのプロセスで設定したリスクの優先度や、具体的な対応方法を一元管理することで、万が一トラブルが発生してもスムーズに対応できるようになります。
リスク管理表には、以下のような項目を記載します。
項目 | 内容 |
---|---|
リスクの内容 | 発生する可能性のあるリスクの内容と要因・プロジェクトへの影響 |
リスクを発生日 | リスクが発生した日時 |
担当者 | リスクに対応する担当者名 |
リスクの重要度 | 「高」「中」「低」などでレベル分けする |
リスク対応優先度 | リスクに対する優先度。A、B、Cなどでランク付けする |
リスク対応策 | リスクが発生した際の対応の流れ、必要な人員、時間など具体的な対応方法を記載する |
対応期日 | 対応を終わらせなければならない期日 |
ステータス | 「未着手」「対応中」「保留」「完了」などの状況を記載 |
また、必要に応じて項目の追加や変更、調整を行うことが大切です。
システム開発のリスクを回避するためのポイント
システム開発のリスクを回避するために、クライアントが意識するべき主なポイントとしては、以下が挙げられます。
- 開発会社とのコミュニケーションをしっかりと行う
- 見積もりに基づいた十分な予算を確保しておく
- 納期は余裕を持って設定する
- 開発手法ごとの特徴を理解しておく
- 開発企業との相性を見極める
それぞれのポイントについて詳しく紹介します。
開発会社とのコミュニケーションをしっかりと行う
システム開発におけるリスクを回避するためには、開発会社とクライアントの綿密なコミュニケーションが欠かせません。
特に、要件定義はシステム開発の核となるため、クライアントが希望する仕様、機能、予算などを確実に共有し、開発会社の技術力で実現できるかを確認する必要があります。
また、万が一トラブルが発生した際の担当窓口や、具体的な解決方法、必要な費用や工数などについても、あらかじめ合意しておくことが望ましいです。
このように十分なコミュニケーションを取っておけば、信頼関係が構築されるため、トラブルが発生した際にもスムーズな解決を図れるでしょう。
見積もりに基づいた十分な予算を確保しておく
システム開発には開発費用だけでなく、要件定義や設計費用、デザイン費用など、様々な費用がかかります。開発が始まる前に綿密な打ち合わせを行い、見積もりに基づいた十分な予算を確保しておきましょう。
また、この時点でトラブル発生時の費用責任の所在が不明であったり、見積内容が不明瞭だったりする場合は、後から想定外の費用が生じる可能性が高くなります。金銭的リスクを回避するためにも、見積内容を詳細に確認し、不明点があれば解決しておくことが重要です。
納期は余裕を持って設定する
システム開発では、仕様の見直しやリソース不足、作業工数の見誤りなど、予期せぬアクシデントが発生しがちです。アクシデントがあっても納品リスクが顕在化しないよう、納期は余裕をもって設定しましょう。
クライアントは、あらかじめアクシデントの発生を考慮したうえで、自社が希望する納期をはっきりと伝えることが大切です。 その際、開発会社から納期調整の要望があれば、柔軟に対応しましょう。
リリース後の不具合を回避するためにも、お互いにすり合わせの上納期を設定するのが望ましいです。
開発手法ごとの特徴を理解しておく
システム開発の手法ごとの特徴を理解しておくことも、リスク回避のために重要です。
どの開発手法を用いるかは、開発担当者のスキル・経験や、開発するシステムの特性に応じて、開発会社が判断するのが一般的です。
ただし、委託企業側も各手法の特徴を理解しておけば、開発会社から説明を受けた際の理解が深まるでしょう。双方が共通認識を持ったうえで開発を進められるため、リスクの顕在化を効果的に抑止できます。
開発企業との相性を見極める
システム開発におけるリスクを回避するポイントとして最も大切なのは、開発会社との相性です。クライアントがどれだけコミュニケーションを取ろうとしても、開発企業がそれをくみ取れなければ、認識がずれる可能性が高くなります。
また、開発企業の開発スキル不足や工数の見積が甘さあれば、希望通りのシステム・ソフトウェアの開発は難しくなり、納期の延長や費用の増大につながる恐れがあります。
開発企業を選ぶ際は、以下のポイントを踏まえて検討してみてください。
- 打ち合わせの際に分かりやすい説明をしてくれるか
- こちらの要望を理解してくれるか
- スムーズな情報伝達が可能か
まとめ
システム開発にはいくつかのリスクが存在します。リスクの顕在化を防ぎ、万が一顕在化した際の被害を最小限に抑えるには、適切なリスクマネジメントが欠かせません。
リスクマネジメントでは、考え得るリスクを洗い出したうえで、分析し、優先順位をつけ、対処方法を準備していきます。また、開発会社とのコミュニケーションを増やす、十分な予算を確保する、余裕のある納期を設定するといった対策も検討してください。
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