アプリ開発の要件定義は、プロジェクトの基礎となる重要な要素を明確にする過程のことです。プロジェクトを成功させるためには、初期段階での適切な要件定義が欠かせません。
この記事では、要件定義で定めるべき3つの要素や、要件定義書の作成方法、作成時のポイントなどについて解説します。
目次
アプリ開発における要件定義とは
アプリ開発における要件定義とは、プロジェクトの初期段階に、アプリ完成に必要な以下の要素を明確に定める工程です。
- アプリの目的
- 搭載する機能
- クライアントの要望
- 開発の範囲
アプリ開発において、依頼内容や希望する仕様が明確でないクライアントも少なくありません。また、開発者側もクライアントの要望を十分に理解しないまま開発を進めてしまうと、途中で大幅な変更や作り直しが必要になる可能性が高くなります。
要件定義を的確に行うことで、クライアントと開発者の間で認識を合わせプロジェクトの方向性を明確にできます。これにより、開発チームは明確な指針を持って設計・開発に取り組むことが可能です。
また、要件定義に似た用語として「要求定義」という言葉がありますが、これはユーザーがアプリ開発に求めるものや、アプリ開発によって果たすべき目的を明確にする過程を指します。
要求定義は要件定義の前段階に行われるため、混同しないようにそれぞれ意味を理解しておきましょう。
アプリ開発の要件定義で定める要素
アプリ開発の要件定義では、主に以下の要素を定めていきます。
- アプリの開発方法
- アプリに搭載する機能
- UI・UX
それぞれの要素について詳しくみていきましょう。
アプリの開発方法
まずは、アプリをどのような方法で構築するかを定めましょう。アプリは、開発方法によって必要なコストや期間、実現可能な機能が異なります。
例えば、フルスクラッチ開発とパッケージサービスを利用した開発では、以下のような違いがあります。
開発方法 | 特徴 |
フルスクラッチ | ・全てを一から構築する開発手法 ・カスタマイズ性が高いため、自社の要求を盛り込んだアプリ開発が可能 ・一方でコストと制作期間が多く掛かる点がデメリット |
パッケージサービス | ・予め開発されている機能を利用して開発を行う手法 ・コストや開発工程を抑えられる ・開発後の修正やアップデートがしやすい ・フルスクラッチに比べて開発の自由度が劣る |
それぞれのメリットとデメリットを十分に理解した上で、開発したいアプリに適した開発方法を選びましょう。
アプリに搭載する機能
次に、アプリ開発の核心部分である、アプリの機能を定めます。どのような機能を搭載したアプリを作るのかは、発注者と開発者で綿密に議論しながら決めていきます。
機能を決定する際には、「アプリを通じて何を実現したいのか」「ユーザーの抱えるどのような課題を解決したいのか」を踏まえて検討しましょう。
目的とニーズがあいまいだと、開発者との間で認識がずれたり、アプリ開発が滞ったりするリスクがあります。場合によっては、プロジェクト自体の頓挫にもつながりかねません。
また、アプリの機能は、一度実装すると削除する際もコストや時間がかかります。まずは必要な機能だけを搭載し、追加で必要になったら段階的に実装しましょう。
UI・UX
UI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)は、アプリの使いやすさや魅力を左右する要素です。
UIとは、ユーザーがアプリを操作するインターフェースのデザインやレイアウトを指します。要件定義書では、ユーザーが実際に操作する画面を想定して、カラーやフォント、アイコンのデザイン、ボタンの配置、画面レイアウトなどの設計を行います。
一方、UXは、ユーザーがアプリを通じて得る総合的な体験を意味する言葉です。UXを向上させるために、ナビゲーション、タスクフロー、フィードバックの仕組みといった要素を設計し、要件定義書にまとめます。
UIとUXは密接な関係にあるため、両者を適切に設計することで、ユーザーの利便性や顧客ロイヤルティの向上につながります。アプリ開発では、UIとUXの連携を意識しながら、それぞれを詳細に定義づけることが大切です。
アプリ開発の要件定義の進め方
アプリ開発の要件定義を効果的に進めるためには、以下のように段階的なアプローチが必要です。
- アプリ開発の理由を明確にし、解決できる課題を検討
- アプリに搭載する機能や開発スケジュールを決める
- 要件定義書を作成する
- 要件定義書とシステム設計のすり合わせ
ここでは、要件定義の進め方について順を追って解説していきます。
アプリ開発の理由を明確にし、解決できる課題を検討
アプリ開発の理由が明確になれば、解決できる課題も見つけやすくなります。また、既存システムの導入や社内体制の変更など、アプリ開発以外の方法でも課題を解決できる場合があります。
その際は、「アプリを作ること」自体が目的にならないよう、本質的な課題解決に焦点を当てましょう。アプリ開発の目的が明確になったら、依頼する開発会社としっかりと共有することも大切です。
アプリに搭載する機能や開発スケジュールを決める
次に、アプリ開発の目的を達成するために必要な機能を具体的に考えましょう。その際は以下のような内容を発注先の担当者と相談しながら決めます。
- 費用や納期等も踏まえて実現可能か
- より良い機能は他にないか
- 個人情報保護や情報セキュリティについての対応
搭載する機能を決定した後は、具体的なスケジュールを決めます。その際、開発期間を過度に短く設定しないよう注意しましょう。開発期間が短すぎると、アプリの品質を担保しにくくなります。一方、開発スケジュールが長期化すればコストの増加につながる恐れがあります。
開発スケジュールを決める際は、依頼者と開発者で十分に相談したうえで、品質とコストのバランスをみながら設定しましょう。
要件定義書を作成する
依頼者と開発者の打ち合わせが終了したら、洗い出した要件をもとに要件定義書を作成します。要件定義書を構成する要素は主に以下の4つです。
要素 | 概要・ポイント |
概要 | ・アプリ開発を行う理由・解決したい課題・目標など、アプリ全体の概要を定める ・アプリを利用するシチュエーションや、利用することで得られる利点などを具体的にイメージしながら定めると良い |
業務要件(システム要件) | ・アプリによってシステム化する業務と、実際にシステム化する際の操作手順などのフローを明確に定める ・発注者側ではこの工程を「業務要件」といい、開発者側では「システム要件」と呼ぶ |
機能要件 | ・発注者の要望に合わせ、検索速度やデータの種類、処理方法など、具体的な機能の実装について定める |
非機能要件 | ・機能以外の全般的な要件について定める ・アプリのセキュリティや保守管理について記載する |
要件定義書では、クライアントの要求とシステム開発で解決したい課題、実現する方法、必要な機能などを各要件に当てはめて定義していきます。
また、要件定義書には代表的なフォーマットとして以下の3つがあげられます。
フォーマット | 特徴 |
機能仕様書 | ・ソフトウェア開発で用いられることの多いフォーマット ・要件定義の軸となる「アプリの機能」について定める仕様となる |
ユーザーストーリー | ・UXの観点から要件をまとめるフォーマット ・ユーザーがどのようにアプリを使うのかを想定しながら要件を定めていく |
スケッチ、ワイヤーフレーム | ・スケッチによってアイデアを視覚的に整理し、そこから洗い出した機能や仕様、要素などをワイヤーフレームでまとめていく ・視覚的に整理できることで、文章だけでまとめるよりもアプリの全体像を捉えやすくなる |
フォーマットを選択する際は、開発内容や依頼者の要求に合わせて決定しましょう。
要件定義書とシステム設計のすり合わせ
要件定義書を作成したら、システム設計とすり合わせを行います。この段階では、要件定義に設計上の問題がないか確認し、実装できる要件とできない要件を明確にします。
また、必要に応じて打ち合わせや修正を行い、要件定義書をブラッシュアップしていくことも重要です。
アプリの要件定義書を作成する際のポイント
アプリ開発の要件定義書を作成する際には、以下のポイントを意識しましょう。
- 機能の優先順位付けをする
- 誰が見てもわかりやすいように作成する
- アプリの操作手順は詳細に記載する
ここでは、開発会社の担当者に向け、要件定義書作成時のポイントを解説します。
機能の優先順位付けをする
機能の優先順位付けを行うことで、開発中のアプリにとって本当に必要な機能なのかを精査できます。例えば下記のケースのように、アプリ開発の目的によってはクライアントが希望する機能でも実装できないこともあります。
- 優先度が低い場合
- 予算・納期などに実現性がない場合
機能の優先順位を決める際は「MoSCoWメソッド」が有効です。これは、クライアントが希望する機能を、以下の4段階に分類し優先順位を決めていく手法となります。
- Must(必須)
- Should(あると良い)
- Could(あっても良い)
- Won’t(見送り)
機能の優先度を決める際は、必要かどうかだけでなく、なぜその機能が必要なのかも確認したうえで、搭載する機能を整理しましょう。
誰が見てもわかりやすいように作成する
要件定義書は、アプリ開発に関わる多くの人が参照する書です。そのため、専門知識を持たない人でも理解できるよう、分かりやすく簡潔な文章を心掛けましょう。
例えば、以下のように理解しやすくするための工夫をすると、開発者と依頼者との齟齬が生じにくくなります。
- 専門用語を使用する際は注釈を入れる
- ワイヤーフレームやスケッチなどを活用して適宜図を挿入する
さらに、書面の内容を見やすく整理しておくと、見落としなどのミスも防げます。
アプリの操作手順は詳細に記載する
要件定義書の「業務要件」では、実際のアプリの操作手順についても記載します。その際は、操作すべき具体的なボタンの指定や画面の遷移、データの入力方法など、可能な限り詳細に記載しましょう。
普段アプリに触れている開発者にとっては当たり前の内容でも、アプリの操作に慣れていないユーザーにとっては分からないことが多くあります。
操作手順書を記載する際は、はじめてアプリを操作するユーザーの目線に立って、実際の操作手順をイメージしながら作成しましょう。ユーザーとの認識のズレを最小限に抑えられます。
アプリ開発の要件定義を成功させるには
アプリ開発の要件定義を成功させるためには、以下のようなポイントがあります。
- 発注者と開発者で開発費用の目安を共有する
- 発注者と開発者はこまめにコミュニケーションを取る
- 事業内容やマーケティング戦略を開発者と共有する
それぞれのポイントについて詳しく紹介します。
発注者と開発者で開発費用の目安を共有する
要件定義では予算の目安を発注側と開発側で共有することが大切です。
特にアプリ開発では、開発方法や搭載する機能によって予算が大きく変わります。「当初聞いていたよりも開発費用が高額だった」など、トラブルを起こさないためにも、開発費用の目安は事前に共有しておきましょう。
発注者と開発者はこまめにコミュニケーションを取る
発注側と開発側の定期的なミーティングや進捗報告は、要件定義の段階から行いましょう。万が一、発注側と開発側のコミュニケーションが不足していると、アプリが完成した後に齟齬が生じる恐れがあります。
場合によっては、一から開発し直す必要に迫られ時間やコストを無駄にする可能性もあります。スムーズな進行を実現するため、こまめなコミュニケーションを心掛けましょう。
事業内容やマーケティング戦略を開発者と共有する
要件定義を成功させるには、依頼者の事業内容やマーケティング戦略を、開発側にも共有しておくことが大切です。アプリ開発の背景情報を共有することで、アプリの目的やビジネスにおける要件の理解につながります。
また、開発側にも共有すれば、業界の特性や顧客のニーズを理解した上で、より効果的な機能やデザインの提案を受けやすくなるでしょう。
まとめ
アプリ開発における要件定義は、プロジェクトの成功を左右する重要な工程です。クライアントのニーズを的確に捉え、アプリの開発方法や搭載する機能、UI・UXなどの要素を明確にしましょう。
また、要望書はクライアントの要望に沿って、機能の優先順位付けや誰にでもわかりやすい文書を作成することがポイントです。
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ご希望やご予算に合わせて、カスタマイズしたシステムを構築いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。